ピアノと書評日記

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【書評】8月第4週 今週読んだ本

タイム・マシンH・G・ウェルズ

SFの巨匠ウェルズの初期の作品。1895年の出版であり、本書を先駆けに様々な「時間旅行モノ」作品が生まれることとなる。主人公であるタイム・トラベラー(作品内で固有名詞は明かされない)は友人たちを前に、未来へ旅行した出来事を語り始める。そこでは一見理想世界が実現している様に見えるのだが、、

資本主義と社会主義の対立や科学万能など、出版当時の社会世相が色濃く反映されている。今読み返すと身構えてしまう部分もあるが、序盤の導入などSF的な面白さを所々感じさせてくれる。一方で未来世界以降の話は、どちらかというと異世界モノの一種で、時間旅行という設定を上手く生かせていないように思えた(このあたりの問題は作者による補遺でも言及している)。

 

 

 

 

境界線(中山七里)


東日本大震災で妻子を失った刑事である主人公は、海岸沿いである女性の遺体を発見したとの連絡を受ける。遺留品から彼の妻であることが判明したが、姿を確認するとまるで別人であった。その後類似の事件が発生したことを契機に調査を開始。震災の行方不明者を騙った戸籍偽造が多数行われていることが判明し、、

本書はミステリーとしての要素もあるが、犯人サイドの動機や心情描写に焦点を当てている(タイトルもこれを示唆している)。震災という1つの事象から、これに巻き込まれる人間たちの境遇や心情の対比を、皮肉を交えて表現している。無常感に包まれる読後感。

 

 

 

未来の年表 業界大変化(河合雅司)


筆者は「未来の年表」シリーズにおいて、人口減少をキーワードに、これからの日本の変化を論じている。本書においては、ビジネス分野に焦点を当て、各業界に訪れるであろう変化とこれに対する処方箋を提示する。
本書の面白いところは、言葉ではなく徹底的に数字を使って、今後の変化を論じている点にある。今後は医師不足の前にそもそも患者数が減少する、IT人材不足で金融業でトラブルが続出するなど、興味深い話が続く。また建設業や物流業だけでなく、警察などの公共サービスの担い手も今後は50歳以上が主力になるなど、笑えない話ばかりで暗澹たる気持ちになる。